呂真美子さんが、フリーランスの写真家として活動をはじめたのは2015年10月。十数年間、デザイナーとして勤めていた会社を辞め、自宅をホームスタジオとして改装し、いちから写真家としての挑戦をはじめた理由とは。
学生時代の恩師との出会いにより、ファッションやデザインについて学んだ呂さん。卒業後はアパレルの道に突き進み、ファッションデザイナーとして働きます。
しかし、結婚・出産というライフイベントにより環境が激変するなか、追い打ちをかけるように会社では部署移動…
移動先の部署での仕事は、営業や生産管理業務。やりがいを感じていたデザインの仕事とは異なり、会社で与えられる立ち位置は本来の希望と次第にズレていったのだそうです。
また、長男と次男の妊娠・出産から仕事復帰の時期に、社内での居づらさや拘束時間の長さによるママ業との両立の厳しさも経験したといいます。
「出産の時期って本当はハッピーなはず。でも、会社での立ち位置や労働時間に悩むことも、はたらいている多くのママが抱えているのと同じように経験しましたし、私生活でも信じられないような辛いできごとが続いてしまって。
実は、次男の誕生とほぼ同時期に、父と母、祖父、義姉も病気で亡くしてしまったのです。産前産後は夫の実家に急遽お世話になっていたから実家との距離もあり、なかなかお見舞いにもいけなかったし、大切な家族をきちんと見送ってあげることができなかった。」
あまりにも突然の別れ、それとは対照的な新しい命の誕生。休む間もなくはじまる、育児や会社復帰…… これまでの会社員としてのライフスタイルでは生活がまわらなくなってしまい、自然と時間に融通のきくフリーランスとしてはたらくことを考えはじめたそうです。
「辛い日々を断ち切ろうという思いや、両親の遺影も満足に用意できなかったことも重なり、自然と家族の美しい写真を残したいと思うようになりました。
そのひとつとして、夫の祖国である韓国のフォトスタジオ写真は前から面白そうだと思っていて。結婚して5年も経つのに、もう一度ウェティングドレスを着たかった(笑)日本じゃ恥ずかしかったし旦那さんの両親と一緒にチョゴリの家族写真の撮影もしたかったので韓国で撮ってもらおうということになりました。」
これが、呂さんの大きな転機となります。韓国ならではのスタジオセットや写真の世界観は美しく、自身の大きな喜びに繋がりました。同時に“カメラの仕事をしたい!”と雷に打たれたような衝動に駆られたのだそうです。
「これなら自分ひとりでもできるかも知れない! という直感がありました。どんなカメラでどう撮るかよりも、ファッショナブルで、幻想的な世界観を撮りたいというイメージがすごく湧いてきて。
場所はどうしようかなと思ったとき、韓国のスタジオセットのような大きなものは到底できっこない、だったら自宅できる範囲のセットを作ったり、出張ロケーション撮影で、他にはないものを世の中に提案していけばいい。
育児のことを考えると時間は日中で、場所は自宅から近いところ… ほかにもいろんな制限や自分がしたいこと、自分にしかできないことを仕事にしたいという夢と理想もたくさんありました。
この制限と希望が錯綜するなかで唯一すべてクリアできる仕事(生きかた)が私にとっては、カメラでした。今ある限られたものの中から何ができるかを考えたときに、これしかない! と感じたことは今でもはっきり覚えています。」
頭の中にあるイメージをカタチにできたのは、デザイナーとしてものづくりをする力を成長させてきた呂さん。だからこそ、表現の手法がこれまで経験したことのないカメラに変わることにも、迷いはなかったのだそうです。
帰国後、すぐにカメラ一式をそろえ、勤めていた会社を辞め、フリーランスの写真家としての新しい生活がはじまりました。
辛いできごとや、困難と思える状況でも「クリエイティブな仕事をしたい」という情熱をもち、はたらきかたまで変えた呂さん。これまで生きてきた中で培った経験をつなげることができれば、どんな新しいことにも挑戦できるという彼女の姿、そして行動力に勇気をもらう女性も多いのではないでしょうか。
フリーランスとなって1年経った今、マタニティフォトをはじめ、お宮参りの出張撮影など、仕事は軌道に乗ってきたと話してくれました。兄弟育児に追われながらも自分のペースではたらける環境に喜びを感じながら、これからも写真家として挑戦を続ける日々。
呂さんは写真家としてこんな風にはなしてくれました。
「私にとってカメラは自分の人生を塗り替えることができる唯一無二の道具です。 2013年に私が見たこの世で一番恐ろしい暗闇の絶望の中で、ある日 一筋の光が見えました。その光は、今までまったく考えもしなかった写真家という生き方でした。
そのおもいきった生き方を選ぶことで、『人生最大の不幸は、最高の夢と理想で打ち消せる!』と考えることができました。カメラは小さな穴から光を集める道具です。これからはカメラを通してたくさんの人のたくさんの幸せを光として集めて、眩しいほどの輝きをもつ作品にしていきたいと思います。
またそうして、私のレンズにお客様からもらった幸せのフィルターを重ねることで、心の奥の悲しみも薄れていくことができています。こんな最高の仕事を選べて最高のお客様と巡り逢えていることに今は思いもよらない不思議な幸福感を感じています。
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